俺の技能は簡単に引き継げるものではない・・・
マニュアル化なんて無駄だ・・・
とマニュアルは職人芸を否定する、
と受け止められることが多くあります。
私の、論理はまったく違います。
マニュアル化は職人の技能を際立たせるものなのです。
例えば「ステーキの焼き」を例にとって考えてみましょう。
マニュアル化するとしたら、
温度、焼き時間、ターン等々を、
シェフが実際に焼くところ見ながら、
一連の行動を計測することになります。
ストップウォッチや温度計を使って採取したデータをもとに、
「ステーキ焼きマニュアル」が完成するという手順になります。
しかしながら、ベテランシェフは
時間を計測して「焼き」を完了させている訳ではありません。
長年の経験に基づき、お肉の焼き色、
匂い、音・・等々の五感を働かせて
終了させているはずです。
微妙な焼き色、微妙な香り、微妙な焼音等々の違い、
それは長年の経験によるらざるを得ません。
その微妙な違いが判断できるところが職人たる所以です。
マニュアルの「焼き10分」は、
職人技に近いものを作ることはできるでしょう。
しかしながら、必ずしも、職人の所以たる「微妙な違い」を
保証するものではありません。
その日の、肉の質、脂分、スジの状況、
厚み、気温、湿度、季節、顧客の状況等々からすると
「あと10秒必要」「焼きすぎ」という可能性だってあります。
つまり、職人が10分程度ずっと「焼き」に携わっていたとしても、
その職人の職人たる所以である「微妙な判断」の部分は、
わずか数十秒ということになるでしょう。
この数十秒が職人の本当の価値なのです。
ならば、この重要な数十秒以外はマニュアルを使い素人に任せ、
重要な数十秒に職人の価値を注入する
という案配にすることにより、
マニュアル化は
職人の本来持っている本来の価値を
際立たせるものになる
というのが私の論理です。